石屋のないしょ話 vol.162

今月は、旅行に行くとつい買ってしまう「土産」についてお話しします。

日本人は、旅行に行ったとき、家族や知人に土産を買って帰ります。 仕事で出張に行ったときでさえ、土産がいっさいないというのは、なんとなく味気ない気がします。 旅行に行ったときに土産を買って帰るという習慣、外国にもあるのですが、いずれの国も日本人ほどに熱心ではありません。

それもそのはずで、日本人にとって土産を買って帰る習慣は、昨日今日生まれたものではないのです。 少なとも千年以上前には、現在の土産の原型ができあがっていたのです。

当時の土産は「つと」と呼ばれ、出かけた際、家族などに持ち帰るものや他家を訪問するときに持参する手土産を指していました。 「家づと」「都のつと」などと用いられ、日本最古の歌集『万葉集』にも登場しています。

やがて「みやげ」と呼ぶようになりますが、当初は「宮笥」という字でした。 「笥」は入れ物の意味で、神霊を入れる容器や、容器の中に入れた御札の貼られた板を指します。 神社詣でをした人が、神様の御利益を持ち帰り、家族や選別をくれた人たちに配るのが本来のみやげでした。 「土産」という字を当てるようになったのは、室町時代以降のことで、この頃から、宮笥だけでなく、その土地の名産品を買う習慣が生まれました。 南北朝時代には、井手の鮭の日干しなど、歌枕にちなんだ自然物が多く、室町時代末期になると編笠や扇、毛抜きといった加工品が増えていきました。 また、参拝客の増加につれて、寺社の近くには様々な店が並ぶようになり、今日のような土産物店ができていきました。

いわば、日本人にとって土産を買う習慣は、遠い祖先から受け継がれてきた遺伝子のようなものです。 旅する機会が増えても簡単にやめるわけにはいかないのでしょう。
石屋のないしょ話でした・・・。