石屋のないしょ話 vol.95

皆さんは、「尼講あまこう」という言葉をご存知でしょうか? 京都では「あまこう」のことを「あまこ」と言います。 今月は「尼講あまこ」についてお話します。 
本来、「尼講」はお寺における檀家の婦人部のようなものですが、京都で言うところの「あまこ」は他所とは違い、宗旨に関係なく町内ごとにあります。 町内でご不幸があった場合、依頼があればそのお家に赴き、お葬式やお逮夜(本来初七日などの前夜)毎に、そのご仏前で御詠歌をあげるのです。 御詠歌というのは、霊場めぐりの時に唱える巡礼歌の一つで、京都では平安時代に成立したといわれる日本最古の観世音菩薩の霊場・西国三十三番のものが特に有名です。 
昔の京都では、必ずこの御詠歌集が家庭にあり、姑や母親から代々受け継がれていたのです。 ある本に、京都には各町内に尼講という趣味の集団があると書かれていましたが、決して「あまこ」は趣味の集団ではありません。 仏様のお教えに導かれた心優しい人達の集まりなのです。 人々のお役に立つ為に、日頃から熱心に御詠歌の稽古を続けられているのです。 この三十三番までの(本当は番外さんというのが他にもあります)御詠歌は、御導師という先行して唄う人に続いて「ちち、ははの〜」と皆が後について唱詠します。 すべてを唄い終えるまでは結構時間がかかりますので、二十四番目の中山寺まであげると休憩することに決まっています。 これらの霊場は殆どが山の中にあり、辿り着くまで坂道や石段を登らなくてはいけない難所ばかりであるため、このあたりで休憩するのです。 休憩の時には、ご不幸ごとのあったお家の方がお茶とお饅頭を用意して「あまこ」さんの方々に喉を潤してもらいます。 この休憩の前に、今夜は何人来て頂いているか、その人数を数えるのは子供の役目です。 
普段は人を家にあげない京都人も、この時だけは夜遅くまでご町内の人がおられても、決してほうきを立てるようなことはしません。 ご近所の人々にこうして一緒に故人を偲んでもらえることを、本当に心強く感じるのです。 そして次の日、「夜前はおおきに有難うございました」と挨拶することから、ご近所との交流がまた一段と深まっていくのです。 「あまこ」は町内の連体を強める役割も持っているのです。 本当の町内のお付き合いは、ただ回覧板を回すだけではありません。 “遠くの親戚より近くの他人”というのは、こういうことなのではないでしょうか?
石屋のないしょ話でした・・・。